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本郷顧問連載コラム:Vintage Sake (全33回)
第19回:酒器で変わる熟成古酒の風格
長期熟成酒研究会顧問 本郷信郎
2011年03月30日(水)
9月のシルバーウィークに日光国立公園内の新甲子温泉「みやま荘」で、数十年熟成の吟醸淡熟タイプの古酒をいただいた。
赤褐色で熟成香も十分、のど越し爽やかですっきりとした飲み口。少し冷やして、新婚ほやほやの若女将もちょっと利き酒…。
貴重な酒だから、と付いたのは上品なグラスだったが、酒器を変えると味は微妙に変わる。目の前の食膳に並ぶ陶器のふたを杯にして酒を利く。柔らかい感じの“答え”がすぐに返ってきた。焼き物の産地、形状で酒の風味ははたまた変わる。専門家でなくとも酒を多少知る人なら判別できる楽しみである。
大坂西区立売堀の酒販店では陶磁器の種別での違いを教えてくれる。ワインの専門家や大学教授らの間で、その楽しみの輪は大きく広がっている。「熟成古酒はグラスではない」と言う教授。昔から金属のスズや桑の木の杯は機能性が伝えられた酒器である。
益子、笠間、美濃、瀬戸、信楽、備前、伊万里、九谷、萩等数えればきりがない。もっと身近な焼き物もたくさんある。塗り物も愛しむものが数々あり、金属には鉄、スズ、チタン等。
戦後、狭い居間に大きなサイドボードを入れ、洋食器やグラスを整えた。その後、結婚式や記念日の引き出物として、高価な日本の伝統工芸品の酒器等が少しずつ増え、そこに並び始めた。
政治だけではなく、今どきは「チェンジ」の発想で、日本の工芸品の活用を楽しむ時代に入りつつある。
それぞれの酒器によってお酒の印象が異なることの説明を聞く前に、まず、それを楽しみ、そして考えてみられては。それぞれ、マイグラスの好みが微妙に異なることも楽しみの一つとなる。
テストは吟醸淡熟タイプは多少低い温度で、常温熟成させた濃熟タイプと中間タイプは常温で。それぞれの違いはどんなところか、意見を交換し合い、交流を楽しむ。
酔いの酒から楽しむ酒に。楽しむ中での程よい酔いを。酔いざめの早い酒は鎌倉時代からの伝統であるが、むしろ現代に合う酒なのかもしれない。
次回は食中酒としてのさかなとの相性について報告したい。
(Kyodo Weekly 2009.10.12号掲載)