本郷顧問連載コラム:Vintage Sake (全33回)

第20回:食と酒のマッチング

長期熟成酒研究会顧問 本郷信郎

本郷先生近影熟成古酒と現代食とのマッチングは非常に奥深い。吟醸を熟成させた淡熟タイプ、純米や本醸造等、常温熟成の濃熟タイプ…。以前、1969(元禄2)年の真っ黒でドロドロに近い酒を、舌の上でなめるように溶かしていただいたが、のど越しはスッキリしたものであった。

赤ワインは「肉を食べる前に」といわれる。食べて口中の味蕾に残る油脂分を赤ワインのタンニンが“洗う”ので次の食物を新鮮に迎え入れられるという。熟成古酒の苦味成分もまた同じく味蕾を洗うことで、いつも新鮮な食味を持つことが出来る。

近くのスーパーやデパートで必ず置かれているチーズ類。その中のクリームチーズと調味された熟成粕を混ぜて浅く漬けたものが、熟成古酒の淡熟タイプの酒の肴としてよく合う。栃木県の東力士の蔵元が開発し、特に関西のデパートで広く伸びた商品となっている。現在は品切れの状況とか。そこで、自宅で即席で作り、熟成古酒と一緒に頂いている。

清酒粕は色々な機能性を持っており、今も色々な部門で研究され、学会で発表されている。市中で練り粕を見掛けることはなかなか少ないが、近くの酒造家さんを訪ねていけば、必ず分けてもらえる。

我が家では春先に大吟醸の板粕を分けていただき、甕に貯蔵しておく。この時、空気を排除するため、自分の足で“踏み込む”ことが肝心である。酸素があると褐色に変化するのが早く、ピンク色の粕にするためには、空気を全部追い出すことが必要となる。

様々なクリームチーズの食べ方2か月もすると優れた熟成粕になっている。これをプラスティック製の食品保存容器に分けて冷蔵庫に保管する。これを「踏込粕」ともいう。昔は、良い踏込粕を造れるまでに3年かかるといわれていた。

クリームチーズを除いて調味された練り粕と合わせる時、練りワサビを一緒に混ぜ込んでいく。より香りを楽しみたいときは生ワサビをすりおろして。できたものをクラッカーの上にのせれば、短時間で上品な酒のおつまみが出来上がる。

踏込粕をそのままガーゼで包み、その中にスジコ、タラコ等を入れ込み、漬けておいたものをそれぞれのせれば、これまた美味しくいただける。漬け過ぎないのがコツ。最初からクラッカーにのる大きさに切っておけば、手際良く作ることが出来る。

これはお酒に限らず、ワイン等にもよく合う。東京京橋にある有名なフランス料理店「シェ・イノ」のオーナーシェフ井上旭さんも「あれはどの酒にもよく合う」と絶賛している。

次回も食とのマッチングについて。

(Kyodo Weekly 2009.11.9号掲載)