本郷顧問連載コラム:Vintage Sake (全33回)

第6回:心のロマン、熟成古酒

長期熟成酒研究会顧問 本郷信郎

本郷先生近影世界の酒を知る故・坂口謹一郎先生などのアドバイスを基にかすかに伝えられた伝統文化、熟成古酒造りのロマンにメーカーが挑んだのは昭和30年代後半である。搾りたての大吟醸を利き、その熟成古酒を利き、また新酒を利くと、最初には感じなかった生臭い香りを受ける。エージングの素晴らしさ、奥深さを知る。熟成古酒の輪が広がり、人々が動き出す。

季刊誌が取り上げ、デパートの和酒売場に長期熟成酒コーナーが出来たのは1987(昭和62)年ごろ。長期熟成酒研究会が主催する勉強会に、将来酒関連の仕事を目指す若い女性が大学ノートを持って集まっていた。

「杜氏という仕事」(新潮選書)の著者である藤田千恵子さんもこのころから家庭での熟成を試み始めたという。もう20年たち、家にあるふたつの冷蔵庫のうち、ひとつは完全に吟醸系の熟成用。常温熟成は生もと、山廃を積極的に。結婚祝いの酒はほとんど熟成へ。リビングの棚だな、廊下、そして夫の部屋だけでなく、田舎の実家にも段ボールで預けた。その数500アイテム。

500は我が家にも、というのは伊勢丹の酒販担当部門の沼滝司さん。自家熟成は8年前ぐらいから。飲み比べの理解が早いが、量は飲めない。時間を置いて、再び利くと「差」が見えた。ワインにはヴィンテージがあるが、清酒は熟成によって増えてくるものがある。常温と低温は半々ぐらい。ただ、年数だけが味を左右するものではないという。今後大いに啓蒙すべき問題である。

李白「純米大吟醸 1986年醸造」ドクターで、もうメーカー在庫もない熟成古酒を集める方もいる。最近開いた勉強会に貴重な年代モノ、2アイテムを提供いただいた。新橋駅前ビルに酒販店バー「花」を持つ伊藤淳さんに教えられたという。約20人が熟成古酒の勉強に集う。

熟成古酒を取り扱う店は全国にある。札幌は「銘酒の裕多加」。宮城・気仙沼「おけい茶屋熊谷商店」には首都圏から若い女性が集まって来て、酒の交換会を開催している。宇都宮「澤田屋酒店」の熟成アイテム数は200。埼玉・上尾「川田屋商店」も長年足で集めた50アイテムを専用冷蔵庫に保管している。

東京では、町田「さかや栗原」の地下倉庫に有名銘柄が。その弟さんは、銀座で30以上の熟成古酒が飲める「庫裏」のオーナー。中野で専門担当者を置く「味ノマチダヤ」。高田馬場には「真菜板」があり、その“教え子”は恵比寿で「庵弧」を開く。大阪市西区「島田商店」は利き酒が出来、ツアー客も出入りするお店。福岡・春日「カネダイ」は、客と語れる店を作った。

蓄積いっぱいの店は全国に100軒を超える。詳しくは「熟成古酒を飲める店」「熟成古酒を店頭で買える店」「熟成古酒をオンラインで買える店」で。

次回はいろいろな酒の会について伝えたい。

(Kyodo Weekly 2008.9.8号掲載)