本郷顧問連載コラム:Vintage Sake (全33回)

第8回:現代食とのマッチング

長期熟成酒研究会顧問 本郷信郎

本郷先生近影世界の古くからの食器類には必ず酒をくむグラスが付いている。特に我が国は、酒の上がらぬ神はないといわれる親しみが残されていた。

日本酒造組合中央会が、現代にある日本酒を4タイプに分けて現代の食とのマッチングを評価したところ、熟成タイプに分類された熟成古酒がマッチすることが最多であった。

現代の食事の油脂分の摂取量は、3、4倍になっているといわれ、食事により口腔の味蕾に残る油脂分を洗うのは赤ワインが持つタンニン類、熟成古酒が持つ苦味である。洗われた味蕾は新鮮な中に次の食事を迎えることができ、食中酒として高い評価を得られているのである。

大吟醸を低温で長期に熟成させる淡熟タイプの酒はフランス料理とのマッチングが最高と、評価が高い。

「初孫」の貯蔵庫山形県酒田市にあるフランス料理店ル・ポットフー。日本海の荒波にもまれて身のしまった新鮮な魚介類と、この店でしか飲めない、低温熟成20年以上にもなるこの街の東北銘醸で造られたデラックス初孫とのマッチングが楽しめる。多くの文化人の筆になることが多い有名店がある。

熟成古酒は、特徴あるカマンベールチーズやクリームチーズなどのチーズ類との相性も良く、濃熟タイプから淡熟タイプまでそれぞれに対応。チョコレートともマッチ、特にオランジュショコラの気品を楽しむことが出来る。また、濃熟タイプの10年以上熟成の酒はカレーに合うのである。

最近、クリームチーズを清酒粕に漬けた商品が関西のデパート中心に広く販売されている。即席的にはクリームチーズと練り粕を合わせ、これにワサビなどで香味を付け、クラッカーの上に乗せる。これが熟成古酒に合う。練り粕に筋子、たらこ、明太子など1、2週間漬け、クラッカーに乗せても良い。美味しさを創造、手作りの楽しみを味わえる。

もち米で造った甘酒を基につくるイカの塩辛もマッチング。古来、春先に芽生える苦味走る山菜での山菜みそが熟成古酒との相性の良いこともまた驚きである。

江戸時代以前、純米酒の酒の強さを和らげた熟成古酒の量が多く好まれた時代があったという。和食が世界的に波及、拡大し、それと共に日本酒も広がっていった。我が国でも現在の大吟醸の銘柄品の多くに2、3年から5、6年熟成された商品が高価なものとして広がりを見せていることは、伝統ある和食への回帰とともに連動するのではないかと思う。それは世界的な和食の広がり、健康イメージと機能性ある清酒の広がりから始まるのでないだろうか。

次回は清酒の常識・非常識をお届けする。

(Kyodo Weekly 2008.11.13号掲載)