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本郷顧問連載コラム:Vintage Sake (全33回)
第9回:日本酒の常識・非常識
長期熟成酒研究会顧問 本郷信郎
2011年01月21日(金)
1500年以上の伝統を持つ国酒、清酒の消費が減少している。食の交流に伴って、酒の交流もまた盛んになっているが、世界各国における代表酒の消費は落ちている。そんな中、熟成古酒だけは、いずれの国でも高貴な酒として珍重され、消費は安定している。
しかし、我が国では熟成古酒は90年間に渡り姿を消し、戦中戦後の配給酒で、清酒を長期間置くと酢になるという誤った常識が出来上がってしまった。
酢は清酒粕などを原料とする穀物酢のほか、ワインやリンゴ酢などの果実酢、いわゆるビネガーがある。いずれも酢酸菌を植え付けて造る。清酒を腐敗させるのは火落菌という乳酸菌の一種である。
醸造酒では菌の繁殖を防ぐため、低温殺菌法など火入れが確実に行われてるが、それでも油断はできなかった。清酒には1905年から69年までサリチル酸の使用が許されていたが、それ以降は廃止されている。ワインは亜硫酸が防腐剤として許されている。現在は酸化防止剤無添加酒のワインが年々伸びている。清酒には生酒がある。それは醸造環境が戦後に比べ格段に改善されたことによる。
清酒はいまだに酢になると信じられているが、そうではない。業界は全力を挙げて正しく認識してもらう必要がある。
甘い酒は悪い酒で、辛口の酒は良い酒。こうした一般認識も、食べる米さえ十分でなかった戦後、清酒と同濃度の醸造アルコールなどを入れていた「増醸酒」時代にできた。米が十分な時代となった時に是正されるべきだったが、60年近くかかってようやく2006(平成18)年の酒税法改正で増醸酒は清酒から外された。
我々の食事の油脂分の大幅な増加もこれに関係していたとも思える。
江戸時代、純米酒の強さを和らげようと熟成古酒にしたり、清酒を蒸留した焼酎を柱焼酎として、防腐剤として加えられていたことがある。アルコール強化ワインにも似ている手法である。ただ柱焼酎は何年か熟成させたものであったとみられる。
甘口の酒をただ甘いと感じさせるのではなく、辛口の酒を辛いと感じさせない、柔らかさが乗っている酒。甘辛はメーカーの造りによっていくらでも調整が出来るが、柔らかさのある風格のある酒はなかなか造れないのが現状である。
動物は本能的に自然界には渋い物、辛い物には毒があり、甘い物には少ないことを知っており、本来甘い物を好んでいる。米国人は日本人が甘口の酒を嫌うことを不思議に思っている。
清酒を買いに来た客は「辛口はありますか」「辛口はどれですか」と問う。多くの酒を利いた上でお買い求めいただくと決して辛口の酒ではなく、やや甘口の酒である。
次回は健康面でも素晴らしい熟成古酒の話を。
(Kyodo Weekly 2008.12.22号掲載)