本郷顧問連載コラム:Vintage Sake (全33回)

第10回:一年の計、百薬の長にて

長期熟成酒研究会顧問 本郷信郎

本郷先生近影正月にお屠蘇の言葉を時々耳にする事はあるが、実際その酒を口に入れたことはないのが現状でなかろうか。松竹立てて、門ごとに、そこに浮かび上がってくるのは当然、酒である。一年の計は元旦にあり、健康の計も元旦にあり、癒しに飲む酒は百薬の長である。

昭和の初めごろまでは各家々で独自のお屠蘇を作っていたが、屠蘇散として商品化されてからは、その姿も少なくなっている。正月の松の内の祝儀用に使用された薬酒で、悪鬼を屠るものとして811年、宮中で使用され、民間に広がったといわれる。

我が家も大晦日の夜か、元日の朝早く甘口の酒を信楽焼とっくりでいただく。

お屠蘇を夫婦で乾杯。お次は昭和54(1979)年醸造の純米甘口、果実香のする30年モノの達磨正宗を続けている。

既に一般販売は中止になっている酒で、平成11(1999)年にNHKが放送した大河ドラマ「元禄繚乱」で、“将軍”が飲む酒として持ち込まれた酒でもある。年始に集まる家族にも健康を願って、まずこの酒を勧める。ただ、年々我が家の“在庫”が減る状況を目の当たりにして、最近は2年に1本の割合での“消化”に規制している。

「酒一筋」の利守酒造熟成古酒は酔い醒めの早い酒であり、「二日酔いのない酒」と伝えられ、アルコールに弱い日本人には、より健康的な酒である。昔は「村醒め」、現代は「軒醒め」だのと言われる。村に帰ったときに酔いから醒めていれば良かった時代から、その場を離れて軒を出るやいなやで醒めていることが要求される時代へ。今や軒醒めの時代。寒風吹く冬の日、熟成古酒だけで、ほかの酒を口にせずに試していただきたい。その体験にきっと驚かれることである。

清酒の消費は日本海側を中心に米作りの豊かな土地で多く、そこは色白の美人の産地ともいわれる地域である。米を原料とする清酒の“機能性”は1冊の本に著すには余りあるが、さらに、熟成古酒は体にやさしい機能を持つ。

その仕込みの中で、醸造学会で「国菌」に指定されたA.O.(アスペルギルス・オリゼ)で造られる麹の量に左右される。既にオール麹を使う酒が平成11(1999)年から造られ、市場にも出ている。この豊かな酒の年数の若い物は既に終売になるものが続出している。酸と糖のバランスが良く調和し、しかも風格のある米の旨味を十分に味わえる酒である。子供や孫の祝いに買い求める人も多く、隠れた銘酒になっている。

最近は米のエキスを主成分に作られる化粧水も多く、酒造家や化粧品会社で造られており、その売り上げは酒造家の分だけで70億-80億にも推定される規模になっている。

次回は「解脱」の時を知る利き酒について。

(Kyodo Weekly 2009.1.19号掲載)