本郷顧問連載コラム:Vintage Sake (全33回)

第12回:日本酒百年貯蔵プロジェクト

長期熟成酒研究会顧問 本郷信郎

本郷先生近影独立行政法人酒類総合研究所東京事務所にある1904(明治37)年建造の地下第3貯蔵室-。この赤レンガ造りの蔵では、長期熟成酒研究会と酒類総合研究所との間で2005(平成17)年6月に結んだ覚書に基づき、「日本酒百年貯蔵プロジェクト」が進行している。

長期熟成酒研究会加盟のメーカー25社(当時)は、1.8リットル瓶1本か、酸化防止を目的とした1リットルのチタンボトル2本のどちらかを提出。また、10年に1度の定期経過観察に使う720ミリリットル瓶も各社10本を貯蔵した。ほかに酒類総合研究所が造った日本酒と、和歌山県かつらぎ町に400年前からの帯生酒造に残っていた、昭和初年度とみられるワラに包まれた酔人日「スヰートピー」1本が加わっている。地下貯蔵庫の蔵内常温と程よい湿度で熟成され、その途中変化、貴重な民族の酒の基礎データを我々に発信してくれることになる。

酒類総合研究所の「赤レンガ倉庫」スヰートピーは04年5月に帯生酒造から探し出された1リットル瓶30本のうち10本が酒類総研に無償で譲渡され、その経過の官能検査、分析結果を発表することとなっているが、そのうちの1本が「プロジェクト」に。すなわち、100年後には180年を超える酒が存在することになる。この酒は05年6月の長期熟成酒研究会の勉強会にも提供された。プロファイル法によって200人余りの利き酒者の脳裏に刻まれ、統計が取られた酒でもある。

また、酒類総合研究所とのプロジェクトとは別に、05年11月、東京農業大学短期大学部醸造学科とは「100年貯蔵熟成」の覚書が交わされている。安藤達彦、舘博両教授の研究室や穂坂賢准教授と連携して、醸造学科の温度、湿度が管理できる保管庫の中で、熟成は進んでいる。

「赤レンガ倉庫」地下での貯蔵の様子ここでの熟成は酒類総研の蔵内常温よりやや低い温度で実施されている。メーカーの張ったレッテルは100年は保たれないとみて、金属板によるレッテル表示とした。この酒は3年ごとの官能検査、分析評価が行われることになっており、醸造学科の学生が卒業までの間に熟成古酒を体験した後に卒業することを考慮している。

熟成開始から3年目の08年秋に東京農大グリーンアカデミーで研究発表されたが、そのデータを100年後の人々はどう受け止めるだろうか。100年後にはさらに200年、300年後の夢を見る人が現れているかもしれない。興味は尽きない。

我々が残した長期熟成酒のロマンが引き継がれていくことを願っている。

次回は「我が家での自家熟成の実態」を報告する。

(Kyodo Weekly 2009.3.9号掲載)