本郷顧問連載コラム:Vintage Sake (全33回)

第17回:熟マーク

長期熟成酒研究会顧問 本郷信郎

本郷先生近影アルコール度数が低くとも、酒の風格を持ち、その調和の良さを崩さないのが熟成古酒である。

我々の先達がどんな味の熟成古酒を楽しんだのか。その確証は残っていないが、わずかばかり残された元禄の酒や明治生まれの人々が思い描いて造った酒、そして伝統ある酒造家に残されていた酒を利いたり、ここ20年余の古酒造りを経験したりして、ひとつの姿を見出すことが出来た。

熟成古酒には、鎌倉時代から江戸期に賞味され、原料米の精米度も低く米の旨味を残し定温で熟成させた「濃熟タイプ」と、江戸期までは存在せず、明治以降業界を挙げて推奨してきた比較的低温で熟成された吟醸酒の「淡熟タイプ」とがある。

大正生まれ以降の造り人の多くは、原料米を削ることにより、米殻の外側の表層に多く含まれるタンパクを取り去る吟醸酒造りの競争に走った。このことによって、江戸期までの原料米に含まれるタンパクを麹の酵素の力で「オリ」として除去して米の旨さを保つ造り方に加え、二つの製造方法を会得したのである。

さらに、近年になって、麹の持つ自然の素晴らしい酵素力に着目し、従来の麹の量を倍にした仕込みや原料米全部を麹にしたオール麹仕込みの酒も生まれ、これは消費者自身でも熟成させやすいことから「自家熟タイプ」といえる。

三種類の「熟マーク」熟成古酒の復興・研究に取り組んできた蔵元の集まりである長期熟成酒研究会は平成12(2000)年、消費者が優れた熟成古酒と判断しやすいように、推奨の「熟マーク」シールを貼ることに。酒つぼを表す古い象形文字が熟成を表す「熟」の文字を包み込むデザインで、「淡熟タイプ」には赤褐色、「濃熟タイプ」には金色、そして「自家熟適性タイプ」は緑色の3種類を用意した。

「熟マーク」の推奨を受けるには(1)長期熟成酒研究会会員の熟成古酒であること(2)会員の蔵元相互間の利き酒会に3回以上出展され、調和のある美味しい熟成古酒であると認定されたもの(3)熟マークシール認定委員会において認定された熟成古酒であること―が必要となる。

「熟マーク」の貼られた熟成古酒の数々現在、市場には500に近いアイテムの熟成古酒が流通しているとみられる。しかし、それらの中には蔵の中にたまたま残された酒、熟成度の短い酒、本来の熟成古酒を知らない人が製造したものもある。熟成の最初は変化からと言われている。「味が変わっている」「香りが変わっている」というだけでは、本来の熟成古酒とは言えない。

「熟マーク」シールは、20年余をかけて求めてきた本来の熟成古酒の味を、消費者に対し安心してお届けするための目印といえる。

次回はアルコール度数が低くても、調和と風格を崩さない熟成古酒の特長について。

(Kyodo Weekly 2009.8.10号掲載)