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本郷顧問連載コラム:Vintage Sake (全33回)
第27回:『山蔵』に『海蔵』
長期熟成酒研究会顧問 本郷信郎
2011年04月14日(木)
昭和30年代、酒を積んだ「千鳥丸」。清酒約1000石を積んで千葉県市川港を出航。灘へ向かった。途中、大きなしけに遭い、名古屋沖で遭難。酒は深い海底に眠った。それから約50年。その酒はどんな熟成古酒になっているだろうか。
紫外線は完全にシャットアウト。海底の揺れにもまれ、熟成には好条件であるが、海温は低すぎるのではないだろうか。それにしても50年の月日、当時の酒は甘味の多い酒の時代。真っ黒に変色した濃熟タイプの熟成古酒が出来上がっている可能性がある。
千鳥海運の会長は「あのタンカーも、もう50年近い年月で腐食が進み、酒はそこから染み出しているのではなかろうか」と言う。魚達が”丸く””柔らかく”なった熟成古酒を楽しみ、竜宮城を建設しているのではなかろうか。
さて地上では、地産地消の考えの基に、地元の酒を「山蔵」と「海蔵」を造って熟成を試みているグループがある。
エルデベルグ平井(姫路市土山東の町)の酒岳堂の平井誠一代表を中心とし、地元酒造会社の若者たちを含んだグループがある。1994年に山蔵として生野銀山坑道跡での熟成をスタートさせ、2009年には、姫路に近い室津沖のカキ養殖いかだにつるすことで海蔵を展開している。この企画に参加したロマンチストは、光栄水産の磯部公一氏。そして、そのいかだに酒をつるしたのは、姫路市の蔵元「龍力(米のささやき)」の若きエース本田龍祐君である。
海底に酒を置くと波で流されるので、いかだにつるしたのである。水深4.5~6メートルぐらい。紫外線の届かないといわれる深さで、海水温はカキの育つ温度。いかだの揺れは、酒にとって夢の揺りかごの心地ではないだろうか。
ただ、ここに思わぬ大敵が現れた。瓶はビニール袋に入れて袋を外すが、箱にはいっぱいの貝や海の生物が付き、においを発生させる。
今回は半年でカキの成育に合わせて引き上げてみた。酒は柔らかさを増し、熟成には好条件であることが判明しているが、それを再び海中に戻すか、あるいは地上で熟成を続けるか、企画を練っている最中という。今後の熟成処置いかんによって、どんな熟成古酒が出るか全く未知である。
香りの高い吟醸タイプの酒には、±4℃ぐらいの低温が必要であり、今回の龍力の酒の様に本醸造タイプの酒は蔵内常温といわれる20度前後が適温であるとみる。海中熟成にするか、地上熟成にするか、次の経過処理に興味は尽きない。何年後かの結果報告を待ちたい。
次回は地下の熟成場所を色々選んでいるメーカーを紹介したい。
(Kyodo Weekly 2010.6.14号掲載)