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本郷顧問連載コラム:Vintage Sake (全33回)
第31回:誕生年の熟成古酒
長期熟成酒研究会顧問 本郷信郎
2011年05月02日(月)
結婚する2人の生まれ年のワインを探し出して、これを手元に置くことは珍しいことではなくなったが、生まれ年の熟成古酒を探し出すのはなかなか難しいのが日本の現状である。
結婚の平均年齢も遅くなり、熟成期間が40年近い日本酒は希少、貴重である。もちろん一般販売は中止になっており、メーカーか、古酒流通ルートをたどって掘り出すしかない。
今回ご紹介するのは、栃木県足利市に住む大塚さん夫妻の結婚式。ワインセラーを作った祖父を持ち、伯母が料理学校経営という家庭環境の中、あるウエディングプランが浮かび上がった。
地中海に面したフランスとイタリアとの国境・コートダジュールの落ち着いた町「マントン」。2人はジャンコクトーがデザインした市庁舎の一室、サロン・ド・マリアージュで挙式、シャンパーニュで乾杯し、ハネムーンを楽しんだ。帰国後、日本で催した披露宴でも1989年のシャンパーニュ等で祝った。
そして、2人は結婚を機に、濃熟タイプの昭和47(1972)年酒と昭和52(1977)年酒を探究することに。昭和47年モノの評価は8万5000円、昭和52年モノは3万5000円といわれる。地方の地酒さんにも何本か、貴重な熟成古酒が出来つつあるとみる。2人が希望する熟成古酒は「オールド・サケ・ギャラリー」が掘り出した。
深いルビー色に染まる、濃熟タイプの熟成古酒に巡り合えた人は少ないだろうが、その落ち着いた香り、酸と甘味の調和、苦味の風格を添え、スッキリしたのど越し…。私は「帝王の酒」と呼んでいる。Vintageモノはセラーで保管。2人がめでたく銀婚式、金婚式を迎えた折に、開栓して誕生と結婚の時を振り返って堪能するのもよし、また、60年を超える古酒ともなれば、売って祝いの宴の費用に当ててもよし、である。
最近、香港での熟成古酒の価格にはビックリさせられる。中国ではさらに拍車が掛かる。現在は限られた中での価値。上昇は大いに期待される。古く、中国では、娘が生まれると、紹興酒の蔵に、その年の酒を蔵の壁の中等に塗りこみ、結婚する時にその酒を取り出し売却、披露宴を盛大に行うとの話がある。
日本でも、子供が生まれたら、自家熟成に挑戦するのもいい。誕生年の市販酒を、生まれた日の新聞紙で包んで紫外線をカット。化粧箱に入れ、立てたままの状態で戸棚に保管する。流れる月日の中でどんな熟成を見せてくれるのか。成人や結婚式に開栓し、包んでいた“古新聞”を読みながら、家族で杯を重ねれば、喜びを一層引き立ててくれるに違いない。
次回は、世界の中の日本の酒について紹介する。
(Kyodo Weekly 2010.10.11号掲載)