白木顧問連載コラム:長期熟成酒の歩みと将来について(全8回)

第1回:何故熟成酒に向かったのか(1)

合資会社白木恒助商店会長・長期熟成酒研究会顧問 白木善次

昭和30年代初頭に大学で学んだ当時から、地方の酒造メーカーの前途についての悲観的予測が語られており、小生も家業の後継者として位置づけられた者としては漠然とした不安感を持ちはじめていたことを記憶しております。

昭和35年に学卒と同時に家業に就いたのでありますが、丁度千石ばかりの量を製造出荷しており、当時差し当たりの方向転換を計る要もなく、又その術も思い当たることなく過ごして来た様に思います。

しかし乍ら昭和40年代に入り、追々全国的に生産量の増加に伴い商いの常であります価格競争が厳しくなり、いつも悩まされておりました。小売の免許制度もからんで販売方法も全く身動きのとれない状態でありました。そこで何か新しい製品での活路を求めようとしても、新製品の開発は製造免許制度の障害に阻まれ出口の見つからない閉塞状態でありました。

当時、差別化の切り札的存在として、吟醸酒が台頭し、中小メーカーの注目するところとなってきており、商品としての市場に於ける地位も徐々に確立されて来た頃だと思います。しかしどうしても私は吟醸造りに入っていく気はありませんでした。その理由は極めて簡単で私自身が吟醸酒が好きになれなかったということであります。