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白木顧問連載コラム:長期熟成酒の歩みと将来について(全8回)
第6回:長期熟成酒研究会について
合資会社白木恒助商店会長・長期熟成酒研究会顧問 白木善次
2012年04月20日(金)
この様に、試行を重ねるうちに、長期熟成酒研究会への入会と、そこで皆様から教わりましたことがその後、この仕事を続けてこられたことへの、大きな支えともなりました。
この会は、昭和60年に酒造経営コンサルタンツの本郷氏の呼びかけに応じて集まったメンバーにより設立されました。その前から準備会なども開かれており、私もその中の一員として参加させていただきました。
設立当初に参加したメンバーが持ち寄った酒質は様々でありまして、思い出しますと、吟醸系の低温熟成のものが多数であり色調の濃いタイプのものは少数派でありました。
今日、一般的に使われるようになりました淡熟タイプ、濃熟タイプとその中間タイプという名称も、持ち寄った酒の表現の方法として、我々の会の中で使用し始めたものであります。又、熟成期間を、我々の内規で三年と定めましたのが一般的となってきている様に思われますが、その期間の長短については、いろいろと議論の末、最低で三年ということになったと記憶しています。
糖類添加酒をこの会として除外致しましたのは、当時の世評の影響もありましたが、もう一つの理由は、糖類添加の問題は、いずれ、リキュールの範囲に入るものであろうという議論も一因となったと思います。当初、会員の持ち寄ったいろいろのタイプの酒質について、お互いの情報も交換し、きき酒をするということ、同時に熟成ということの基本的な勉強も必要だということで、諸先生方からの御講和などもお聞き致しました。
酒は新酒でも酔うことが出来るのに、何故多くの民族や、世界の各地に熟成酒があるのだろうかという、極めて素朴な疑問から始まりました。
酒が熟成し、まろやかになるのは、水とアルコールの分子会合(クラスターの形成)によるものだということについては、当時、東洋大学の教授でもあられた赤星先生の、その実験についての議論などもお聞かせいただきました。吉沢淑先生からは、豊富な成分を持つ熟成酒に発生してくる赤みを持つ褐色への変化は、アミノ酸と糖分による化学変化で、アミノカルボニル反応というものであること、又、その様な酒に見られる黒砂糖を思わせる様な香りは、通称ソトロン(フラノンの一種)であるということも教わり、私の好むタイプのものは、こういうことなのか!と納得をさせていただきました。この研究会の利点は、淡熟タイプ、濃熟タイプ、又その中間に位置するもののそれぞれの製法やその後の処理(炭素使用の有無)積算温度、熟成期間など、一つのメーカーが行えば、多くの時間と資金、努力を要することが、この場で簡単に、その概要を知ることが出来たということであります。
色々なきき酒会を経験してきましたが、熟成酒を追及する意欲のある者にとりまして、これ程中身の濃い会は他に無いであろうという思いがあります。現在でこそ、ようやく日本酒に「古酒」があるのかと少しずつ広がりを見せて来ましたが、この会の発足当初は無論のこと、この熟成酒は本当に売れませんでした。そこでこの研究会でも販売を広げる努力をする意欲が高まり、全国の有名な意欲的な酒販店さんに呼びかけ、熟成酒に就いての知識を持って頂くべく「長期熟成酒勉強会グループ」を発足して頂き、研究会からも、利き酒用サンプルや資料の提供などもさせて頂きました。
諸外国の熟成酒の良さを知っておられ、尚、日本酒の可能性を探る、意欲のある流通関係の皆様が、この会を通じて日本酒の熟成古酒を認識して頂きましたことは、この研究会の成果と思います。この二つの会はそれぞれの共催又は一方の主催に夜、一般顧客向けの試飲会並びにパーティーも行っていますが、追々、熟成酒に対する興味のある来客の数も増しており、諸外国のそれらとの比較意見なども出て、認識は広がりをみせていることは、確かなものになってきています。