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梁井顧問連載コラム:熟成古酒の魅力(連載中)
第1回:はじめに
長期熟成酒研究会顧問 梁井宏
2012年06月05日(火)
長期熟成酒研究会では、長年熟成させた清酒を「長期熟成酒」と称してきましたが、その意味が伝わりにくいなどから、平成20年2月に「熟成古酒」と名前を改め、研究会から発する情報には総てこの名称を使用しています。
古代の酒は、必要なときに必要なだけの量が造られていましたが、中世の交換経済の発展とともに、商品として腐りにくい、長持ちする酒が求められるようになりました。日蓮上人が信徒から贈られた酒への礼状には「三年の古酒一筒」とか「人の血を絞れる如くなる古酒」などと具体的に貯蔵年数が書かれていることなどから、鎌倉時代には酒を長く貯蔵する技術がすでに開発されていたものと思われます。
江戸時代になると「三年、五年と貯蔵した酒は香りがよく、非常に美味い、十年も経つと一見薄く感じるが味わい深く、素晴らしい香りでもっと美味くなる」という趣旨の文献が残されています。また、「三年酒 下戸の苦しむ 口あたり」と、本来は酒の飲めない下戸が、三年酒の口当たりの良さについ飲んでしまい、後から苦しんでいる様をからかった川柳が作られていることなど、何年間も熟成させた酒がかなり広く珍重されていたことがわかります。
ところが明治時代になると、日清、日露戦争を酒税で戦ったと言われるほど、清酒には高額で過酷な「造石税(ぞうこくぜい)」が課せられるなど、さまざまな厳しい環境におかれ、清酒を何年も熟成させるという発想はなくなりました。
また第二次世界大戦後も、蔵元を苦しめた造石税こそなくなりましたが、級別制度などによる国の規制が足かせとなり、「清酒は搾ってから一年以内に飲みきる」ということが常識として、未だに多くの消費者に信じられているのが現状です。
しかし、経済の高度成長が始まった昭和30年代半ばごろから、この常識に疑問を持ち、清酒を長期熟成させることに挑戦する革新的な蔵が現れ、昭和60年(1985年)には長期熟成酒研究会(発足当時は長期貯蔵酒研究会と称した)が創立されました。以来25年余り、さまざまな紆余曲折を経ながらも、同会の地道な活動が実を結び、熟成古酒への関心の高まりとともに、全国的に熟成古酒を造る蔵元は増え、それぞれ個性的で魅力あふれる商品が沢山開発されています。