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梁井顧問連載コラム:熟成古酒の魅力(連載中)
第3回:熟成古酒のタイプ別分類(2)
長期熟成酒研究会顧問 梁井宏
2012年07月05日(木)
(3) 濃熟タイプ
○造り方と熟成温度
最初は多様な成分をできるだけ沢山含む酒を造っておき、それを長い時間をかけて複雑な変化をさせ、香味が調和し、洗練された酒に変身させるものです。
何年くらいで商品にするか、どのような特長を持たせるかによって、その元になる酒の造り方は変わりますが、基本的には、熟成期間をより長くして大きな変化を求めるほど、米は白く磨かず、極端な場合は玄米に近い米を使ったり、三段仕込みにはこだわらず、古い時代の造り方を再現したり、麹だけで仕込むなど、仕込み方法にもさまざまな工夫が行われています。
熟成は主に科学的な変化ですから、温度が高くなるほどそのスピードは速くなりますが、経験的には、夏でも25℃を越えない貯蔵庫などの温度が、香味のバランス的にはよいようです。
○色の特長
熟成古酒に初めて出会った消費者がまず驚かれるのは、濃い黄金色、透き通るような琥珀色、まさに沈まんとする真っ赤な夕日、醤油を思わせる濃い赤褐色(光にかざすと真っ赤なルビー色となる)など、その色の多彩な美しさでしょう。熟成による色は、酒に含まれるさまざまな成分が関与しますが、糖とアミノ酸の影響が一番大きく、これらの成分が多いほど、また熟成年数が長くなるほど色は濃くなります。さらに麹が作り出す成分はきらきらと輝く物質に変化し、その美しさをいっそう引き立てます。
○香りの特徴
熟成古酒の香りで一番問題になるのは老香と熟成香の違いです。
濃熟タイプでは熟成の途中経過において、明らかに老香的な香りになる時期があります。ところが、さらに熟成を進めると老香は消え、好ましい熟成香となります。
その主体はソトロンという香り物質の生成によります。ソトロンはその濃度が濃くなるにしたがってバニラ香 → 蜂蜜の香 → 黒糖の甘い香 → 砂糖の焦げた香 → カレー様香と変化し、紹興酒、フロールシェリー、貴腐ワイン、ビンテージポートワインなどにも含まれる重要な香成分です。
香の表現としては木の実、干した果物、キャラメル、カラメル、蜂蜜、きのこ、焦がしバター、ヨード、きゃら、枯れ草、スパイスなどじつに多様です。
さらに、グラスに注がれた酒の香は薄まることなく、時間の経過とともに微妙に変化します。ゆったりとした時間とともに変わる深い香、熟成古酒ならでの楽しみです。
○解脱と味の特長
最大の特徴は、甘い、すっぱい、苦いなど、味の素となる成分をできるだけ多く含ませ、その複雑な味を長い時間かけて調和させることです。元の酒に含まれる成分が多いほど簡単には調和せず、一時的にはむしろ飲みにくくなる時期がありますが、時の経過とともにオリが出始め、そのオリが総て下がりきったとき、その酒は蛹から脱皮したアゲハチョウのように、香りも味も素晴らしい酒に変身します。長期熟成酒研究会ではこの現象を「解脱」と称し、熟成古酒としてほぼ出来上がったとしています。解脱を迎える時期は、元の酒に含まれる成分の種類と量、熟成温度や、容器などによってさまざまですが、経験的にはその時期は徐々に予測ができるようになってきました。
解脱した酒は甘さ、酸味、苦味など、個々の味をストレートに感じることはなくなり、それぞれが調和して、なめらかで深い味わいとなります。
特に熟成により増加する苦味は、複雑な味わいに重厚さや巾を持たせるばかりではなく、舌離れがよく、脂肪分の多いお料理との相性を良くする重要な働きをします。
3 熟成古酒の年数表示
清酒の製法品質表示基準では、貯蔵年数は任意記載事項ですから、必ずしも表示する義務はありません。ただし、表示をする場合は次の基準に従わなければなりません。
(1)貯蔵年数表示(○年酒、○年熟成酒)
貯蔵年数は容器に貯蔵を始めた翌日からの満年数で数え、1年未満の端数は切り捨てます。異なる年数の酒を混ぜたときは、その最も短い年数で表示しなければなりません。
(2)製造年表示(19○○年、平成○年)
製造年の表示は、その年度に製造されたものにかぎり、年数の異なるものを混和することはできません。