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梁井顧問連載コラム:熟成古酒の魅力(連載中)
第5回:熟成の科学(2)・物理的熟成
長期熟成酒研究会顧問 梁井宏
2012年08月05日(日)
2 物理的熟成
ウイスキーやブランデーなどの蒸留酒が長い年月の貯蔵で熟成し、香味が良くなり、円熟味の増した素晴らしい酒になることは良く知られています。清酒やワインのような醸造酒は、その中に含まれる成分が非常に多く、熟成による変化は化学的なものに囚われがちですが、熟成により、新酒時の刺激的なアルコールの味や匂いが消え、やわらかく飲みやすくなる現象は、化学的な変化だけでは説明できません。
(1)新酒のアルコールと水のクラスター
新酒では、アルコール分子が独自の集団(アルコール分子も水素結合によって集団を作る)を形成している上に、水分子のクラスターも大きい。アルコール分子は水の集団のすき間に入りこめず、いわば、アルコール分子がむき出しの状態になっているため、エタノールの刺激臭が強く、味もきつく感じます。
(2)熟成酒のアルコールと水のクラスター
熟成をさせる過程で、弱い振動などによって水分子、アルコール分子のそれぞれの集団が壊れて小さくなり、アルコール分子が水分子のクラスターのすき間に入りこみます。分かり易くいえば、水分子がアルコール分子を包み込むのです。こうなった酒は、まろやかな味になります。